最古の石器

いつ、だれが作り始めた

この衝撃的な事実を科学誌『ネイチャー』（5月21日号）に発表したのは、米ニューヨーク州立大学のソニア・ハーマンド準教授たち、米・仏・ケニアの研究グループです。
ケニア北西部、トゥルカナ湖西岸のロメクウィ3遺跡の調査をしていた2011年に、ある特徴を持つ28個の石の破片と大きな石を見つけました。
次の年の調査でも多数見つかり、合計で150個近くになりました。

縁が鋭く尖る

石の破片に共通していたのは、肉などを切れるほど縁が鋭く尖っていたことです。縁の尖り方は、自然現象で出来るようなものではないと言います。
一方、大きな石の方は、破片のもとになった原石や、原石を載せて加工するのに使った敷台のように見えました。

手に持った石同士を叩くのではなく、敷石に載せて叩くと言う、これまで知られていたより原始的な方法が用いられていましたが、研究グループはロメクウィ3遺跡を人類が石器を作っていた場所と見ています。問題は、遺跡の年代が約330万年前だったことです。これは、人類が初めて石器を作り始めたとされている年代とかけ離れています。

従来、最古の石器と考えられているのは、1992年にケニアの北隣のエチオピア・ゴナ遺跡で見つかった約260万年前のものです。石を石で叩いて出来た破片などから作った初歩的なもので、このタイプの石器は1930年代にケニアの南隣のタンザニア・オルドバイ渓谷で初めて見つかったことからオルドワン石器と呼ばれます。

石を叩いて石器を作るには、どこが割れやすいかを判断するなど高度な知的能力と、それに基づいて正確に叩く手先の器用さが求められます。この為、脳の大きさがチンパンジーと同程度のエンジンには作れず、脳が大型化した原人の出現で初めて可能になったと考えられてきました。

オルドバイ渓谷では、1960年代に初期の原人化石が見つかった為、この原人がオルドワン石器を作ったとされて来ました。この原人は「器用なヒト」を意味する、ホモ・ハビリスと名付けられています。
しかしホモ・ハビリスが出現したのは早くても230万年前と見られます。一方、ゴナ遺跡を含め、それより古い年代の石器が見つかるようになり、ホモ・ハビリスが最初の石器を作ったとする考えに綻びが生じました。どんな人類が最初に石器を作ったかは、研究者の間で盛んに議論が行われています。

2010年に『ネイチャー』に1本の論文が発表されました。エチオピアのディキカ遺跡で339万年前のウシなどの骨の化石が見つかり、そこに石器のようなもので傷つけられた後が見つかったと言うのです。ディキカ遺跡では、約330万年前のアファール猿人（アウストラロピテクス・アファレンシス）の化石が見つかっています。
石器は見つかっておらず、自然の石によるものではないかと言う指摘も有ります。石器によるもので有れば、当時、原人は未だ出現していなかったと見られることから、猿人が石器を作っていたことになります。

ロメクウィ3遺跡で見つかった石の破片の作製者を解明する手掛かりは有るのでしょうか。現場から1キロメートル以内では、1999年、石器と同年代に生きていた猿人、ケニアントロプス・プラティオプスの化石が見つかっています。

進歩的な特徴

ケニアントロプス・プラティオプスは、他の猿人と比べて脳の大きさは同程度ですが、顔が扁平なのが特徴です。発見者は、これを進歩的な特徴と見ており、1972年にトゥルカナ湖東岸得発見された原人（ホモ・ルドルフェンシス）の直接の祖先との見方を示したいます。
しかし、ハーマンド準教授たちは、ロメクウィ3遺跡で石器を作っていたのがどの人類かを示す直接的証拠が無い為結論は出していません。

猿人に石器を作ることは可能だったのでしょうか。英ケント大学などの研究グループは、南アフリカに居た約260万年前のアフリカヌス猿人（アウストラロピテクス・アフリカヌス）の手に石器を作るのに欠かせない能力が備わっていたとする研究結果を米科学誌『サイエンス』（1月22日号）に発表しました。

エチオピアのアファール地方では、最近、約280万年前の原人化石が発見されたことが報告されました（『サイエンス』電子版3月5日付）。人類の進化と文化の発展に関する研究は、日進月歩の状況です。
イスラエルの考古学者は「これまでは290万年前ごろまでの年代に焦点を当てて来た。今回の発見はもっと古い年代のものを探すべきであることを示している。ロメクウィ3遺跡が最古では無いかも知れない」と、ハーマンド準教授たちの発見について『ネイチャー』（5月21日付）でコメントしています。