個体と群れ、社会

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次に、各位とのやり取りの中で感じた点を、「個体と社会」と言う視点から述べてみます。

私は「動物の群れ」と「人間社会」の質的な差を根拠づけようと、「道具」「言葉」、それによる「思考」の違いなどを挙げ、繰り返しその違いを具体的に提起して来た積りです。

人間の『道具』の特質として、「身体器官の延長・代用で有りながら、遺伝子変異に依存せず、社会の知的集積に応じ、急速に限りなく進化が可能」と、何回か述べていますが、これを、『情報』と言う要素に置き換えて考えても同じことが言えるでしょう。

 

生物学的レベル(階層)で、最も基本的・重要な情報は遺伝子でしょう。その単位は個体です。群れでも社会でも有りません。
「個体は遺伝子の単なる乗り物(ビークル)」説への評価、或いは「群淘汰説」の妥当性は兎も角、遺伝情報が個体を通してしか伝達されないことは確かです。 個体の死や種の絶滅を超えて、今生きている全ての生物個体に遺伝情報が受け継がれてる訳で、その意味で人間個人も、生物としての連続性を持っています。

ミツバチの群れやアジの群れを、「社会」と呼ぶことは自由だし、その視点での学問分野も意義の有ることとして、しかしその「社会」を作る衝動やその内容の情報は、全て各個体の遺伝子に刻み込まれていることです。おそらくミツバチは何も意識することなく、遺伝子の命ずるままに巣を作り、8の字ダンスを踊っているのでしょう。

ミツバチの巣は個体の外に有りますが、先祖ミツバチが作ったその巣の情報を見て、子孫ミツバチが学習する訳では有りません。8の字ダンスにしても同じこと。
 情報は全て生物個体の内に有ります。そう言う意味で「ミツバチ社会」はあくまでも生物学的範疇・階層です。勿論環境の違いによって、多少の適応変異・ローカル性は当然有るにしても。

鳥の鳴き声獲得の過程で「学習」が見られます。どの程度生得的なものでどの程度生後の学習に依存するものか、私にも分かりませんが、その「学習」も含めてやはりその情報は、基本的に個体の中にしか無いものだと思っています。

その点で「人間社会」は事情が違います。

社会を構成する単位はミツバチと同じく生物学的な個体だとして、その社会を作り・進化させる情報は個体の外に、「言葉」「文字」「制作物」と言った形で、社会の中に蓄積・伝達されます。
我々はそれを見たり聞いたりして、個体の経験を超えた情報を得ることができる訳です。
どんな天才であれ個体の能力や経験は限られているし、その能力は個体の死と共に失われるのですが、個体の外に社会的な情報として蓄積される為、今、既に死んでいるニュートンが残した、ニュートン力学の知見を元に計算して、宇宙空間にロケットを飛ばし、正確に月に到達することができる訳です。

又社会を作る情報が、生物学的な個体に依存しない(遺伝子に組み込まれていない)からこそ、同じ種・民族で有りながら、朝鮮半島の北と南で全く違う「社会」体制が出来る訳だし、1870年を挟んだ時期を境に、封建制としての幕藩体制から、資本主義としての明治維新への激変が起こりうる訳です。
その点で人間の「社会」は、生物学的な個体を基礎的な単位とした、共通祖先の「群れ」からの連続性を引き継ぎながら、それを土台として質的に異なる階層へ飛躍したものだと、私は思ってます。

 

個体レベルと、群れ・社会を混同すると、「滑車を作れる人と作れない人」とか「宇宙空間に進出した人はごく一部」と言った話になってしまいます。 月に降り立った個体はごく僅かだとして、それでも「人類が月に到達した」のは間違いないことで、そこに単なる生物学的な進化の延長では説明のつかない、個体の能力と経験を超えた社会的な知的集積と技術の蓄積を見る訳です。
月に足跡を残したのはごく一部の個体だとしても、それはその個体の能力によってではなく、その時点での全人類的な知的到達点によってです。宇宙飛行士が生物学的に進化して、それで宇宙に適応出来た訳ではないし、宇宙飛行士の個人的な能力で達成できたことでは有りませんからね。

※ 進化生物学で今、「群淘汰」の概念は否定されている。淘汰は個体単位だと言うこと。
人間とその社会を、生物学的枠内だけで解釈し、個体レベルでの視点だけに陥った時、結局人類全体の文化・文明、科学技術や芸術への正当な評価を欠くことになる。そう云う一例だろう(2013/1/14)。

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このページは、雄が2009年3月29日 15:16に書いたブログ記事です。

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