>500-200 万年前に生きていた多数のヒト属の種は全て直立二足歩行して道具も使っていた。にもかかわらず、その中のたった一つの系統だけが地球を改変するほどの力を持つに至った。この飛躍を決定した要因とは何なのか? 少なくとも当時のヒト属の種がいずれも保持していた「直立二足歩行」や「石器使用」はこの要因ではあり得ない。
>我々はアウストラロピテクスがヒトの祖先だと知っているため、つい彼らも人間だと考えてしまい勝ちですが、脳容量がチンパンジーと同程度ですから、知的能力もヒトよりはチンパンジーに近いと思っても間違いではないでしょう。また化石も少ないために、社会構造についてはほとんどわかってはいません。
他の類人猿とヒトとを分ける第一の指標を「直立二足歩行」としているのは、現在の進化人類学の、ある程度共通の認識だと、私は考えています。
ホミノイドと思しき化石が発見されたとき、脳容量の如何に関わらず、或いは「文化」程度に関わらず、直立二足歩行の痕跡が認められれば、その化石はヒトに分類されます。
その点だけで言えば頭蓋骨の化石より、骨盤や大腿骨関節の方が重要だとも言えます。
だからこそ「サバンナ説」だの「樹上説」だの「アクア説」だのと、直立二足歩行の起源をめぐって議論がかまびすしい訳です。
直立二足歩行によって前肢が歩行から開放され、手として道具の使用と製作が可能になり、喉頭が下がって複雑な発声の可能性が広がり、重い脳を下から垂直に支えることが出来た、と言うシナリオです。
「直立二足歩行」さえ持ち出せば全てが説明が付くとは、私も考えていませんが、直立二足歩行が無かったら、全ては無かったし何も始まらなかったと思っています。
直立二足歩行が無いまま、若しヒトと言う種が生き残っていたとして、それはおそらく森かサバンナの住人、或いは水の中でイルカのような動物への道を辿っていただろうと思います。
dmさんご指摘のように、人類700万年の歴史の中で、大半は類人猿と区別が付かないような状況が続いたことと、私も思っています。
「社会」と呼べるような体裁が整ったのも、その長い歴史からすればつい最近でしょう。
しかしやはり私の視点は「直立二足歩行で、道具を使って環境に働きかける道に『歩き始めた』こと」が決定的だと思っている訳です。
上記dmさんが挙げた「特性」は、全てその結果で有る訳です。
【ヒト】岩波生物学辞典より抜粋
広義には、ヒト科(Hominidae)のヒト亜科(Homininae)に属する動物の総称。狭義には現生の人類。(中略)
結局のところヒトは、直立二足歩行を行うこと、そしてヒト特有の文化を持つことで類人猿とは区別される。
(中略)
ヒトの身体特徴の多くは直立二足歩行に対する直接的な適応形質で有る。例えば上肢に比べて下肢が京大、骨盤が幅広く大きいなど。上肢が自由になり、道具の製作・使用や身振り言語、さらには音声言語などによる文化活動が可能となり、脳及び頭蓋骨が大きくなった。(以下略、引用終わり)
かってヒトを定義するのに、先ず「知能の発達」を挙げた時代が有りました。突然変異などで脳容量が増大し知能が発達、その知能を使って道具や言葉、文化一般を発達させたと言うものです。
そう言う考え方に付け込む形で起きたのが、科学史上最大の捏造事件とされた、ピルトダウン人だった訳で、およそ40年に渡って深刻な影響を与えました。
今この考えは実際の化石によって否定され、脳容量や全てに先立って、先ず直立二足歩行が有った、と言うのが進化人類学の定説だと、私は認識しています。
そしてそれがスタートラインだった訳です。
【ピルトダウン人】岩波生物学辞典より抜粋
(前略)
この偽物が信憑性をもちえたのは、工作の巧妙さだけでなく、人類化は先ず脳に生じ他の身体部分がそれに追随したとする当時の考えにピルトダウン人が適合したからです。しかしこの考えはアウストラロピテクスの再評価で覆された。この化石の信憑性について多々議論が重ねられたことは、皮肉にも古人類学の発展に寄与し、特にプレサピエンス(pre-sapiens)と言う概念を生み出すに至った。
(引用終わり)
なお今現在の時点で、最古の化石人類(とされているのは)はサヘラントロプス・チャデンシス(トゥーマイ)です(700-600万年前)。
次いでオロリン・ツゲネンシス(600万年前)
次にアウストラロピテクス属から独立に新設されたアルデピテクス属の、カダッパ、ラミダス等。
一連のアウストラロピテクス属は、古さから言えばこの後になります。
ただこう言うことの常として、オロリン発見者のピクフォードとセヌは、トゥーマイはゴリラの祖先か何かで、アルデピテクスはチンパンジーの祖先だと言うし、ラミダス発見者のティム・ホワイトとハイレ=セラシエは、オロリンがアルデピテクスに近い仲間だと言うし。
この辺のことは私としては「高みの見物」でしかない訳ですが、コンピュータグラフィックスによる復元頭蓋骨の大後頭孔の位置と角度から、トゥーマイが直立二足歩行をしていたことに間違いは無いと思われ、従って今の時点で最古のヒトで有るだろうと、私も思っているところです。
>>しかし生まれてすぐに直立二足歩行をする赤ん坊もいないし、放っておいても本能が働きだして直立二足歩行を始める訳でも有りません。社会的な訓練が有って初めて身につくものです、多分(これを実験で確かめる訳には行きません)。
>素直に読むと直立二足歩行が後天的な形質だと読めますが、それは間違いです。ヒトは成長して適切な時期がくれば自然に二足歩行を始めるのです。それは赤ちゃんの成長を見た人ならわかるとは思いますが、より確実には「スウォドリング」を検索してみて下さい。2つサイトを挙げておきます。【直立二足歩行の訓練? 投稿者:dm 】
私が「(直立二足歩行は)社会的な訓練が有って初めて身につくものです」と述べたのは、dmさんのリンク先に有るようなレベルの話では有りません。文字通り人間の社会的なネットワークから一切切り離された場合です。
人間の新生児は極めて無力で、放っておかれたら二足歩行どころか間違いなく生きて行けない訳で、その意味で「実験で確かめる訳に」行かないことですが、若し動物などに育てられ、人間のネットワークが関与しないまま生きながらえたケースが有ったとして、その場合多分、直立二足歩行も有り得ないだろう、と言うことです。
その意味で人間の一番基礎的な特質である、直立二足歩行でさえ社会的な機能と言えるのではないか、と言うのが上記私の主張だった訳です。。
この点でも「Feral child」に詳しそうだった、初心者さんの続編に期待したんですけど。
逆に私が驚いたことが有って、猿回しの猿が直立訓練の過程で、背骨が人間と同じくS字状に湾曲して行くのです。この辺り、結構可塑的なものかも知れません。
人間の骨格形状さえも生得的・固定的なものでなく、生後の直立二足歩行の中で形成されて行くのかも。
長々と失礼しました。
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