ヒトと直立二足歩行ーエレイン・モーガン「アクア説」に関して

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ヒトの定義は「直立二足歩行」

  • 岩波生物学辞典
    1158ページ
    『結局のところ、ヒトは直立二足歩行を行うこと、そしてヒト特有の文化を持つことで類人猿とは区別される』
  • 「最初のヒト」アン・ギボンズ著 新書館
    400ページに渡る全ての内容が、『直立二足歩行=最初のヒト』を当然の前提として、その痕跡を探す化石ハンターのドキュメント、及びヒトの定義など。
  • 「人類進化99の謎」河合信和著 文藝春秋
    17ページ
    『脳の拡大は人類史でもずっと後のことで、直立二足歩行こそが人類の特徴であり.........』
  • 生命150億年の旅 湯浅精二著 新日本新書
    208ページ
    『大切なことは脳容積がかってに大きくなった生物がヒトでは無く、脳容積を大きくしたのがヒトなのです。つまりホモ・エレクトス(雄・注、今はもっと古い ヒトが発見済み)の時代から、足を発達させました。自由になった手は道具を作り利用するようになりました。その結果として脳が発達して来た訳です』
  • 人類の起源論争 エレイン・モーガン著 どうぶつ社
    37ページ
    『2足歩行を常時行っていると言う点が、ゴリラやチンパンジーなどアフリカの類人猿たちと人間を掛ける基本的な違いであることに、異存の有る人はいないだろう』
  • 赤の女王 マット・リドレー著 翔泳新書
    6ページ
    『人間の本性もまた、社会性を持ち、2足歩行する類人猿の特性から進化して来たのではないだろうか』

その他ネットからの出展も含め、こちら参照

 

    

 

直立二足歩行はトンデモナク常識外れの移動様式

進化の傷あと ―― エレイン・モーガン

間違いの無い一つの傾向(34ページ)
1960年以降、ミッシングリンクを求め、アフリカでの発掘が旺盛化し重要な発掘が相次いだ。
その中で、一つの傾向がはっきりして来た。 ―― 北で見つかる化石ほど、時代が古い
 

○ 分子進化学(40ページ)

  1. 1967、ヴィンセント・サリッチ、アラン・ウィルソンによって発表
    500万年前に分岐
  2. チャールズ・シブリー、ジョン・アールクヴィストによる、遺伝物質の構造全体(ヌクレオチドの配列でなく)の相違点を、DNA交雑法により測定成功。
    700-900万年前

………と言う訳で、現在では「600万年前ナイシ00万年前ごろのある時期におそらくはアフリカ北東部の紅海沿岸で、類人猿の1グループが、2本足で立って直立歩行を始めた」(42ページ)。
※ 注目すべきはこの本が出版されたのが、1999/1/20であることである。今のところ最古の人類化石とされるサヘラントロプス・チャデンシス(トゥーマイ)?約700万年前とされる―が発掘されたのが2002年7月。オロリン・ツゲネンシス―約600万年前とされる―の発掘が2000年。
分子時計による年代予測の後に発掘されたこれら化石が若し、本当にヒトの祖先化石であるとしたら、年代がドンピシャリ。

○ 「全ての四足動物にとって、走る為に後ろ脚だけで立ちあがるなどと言うのは、およそ正気の沙汰ではない。実に馬鹿げた行為なのだ」 ―― オーウェン・ラブジョイ(44ページ)。

○ 直立二足歩行は「高い買い物」(45ページ)

  1. われわれは歩く塔
    一般の哺乳類は「歩く吊り橋」
  2. 間違いだらけの設計図
    脊椎の下部が太く、骨盤両サイドの蝶骨の端が腸の重みを支える受け皿のように平たく広がった、 ―― 数百万年かけての、幾分の改良。
  3. 腰痛の最大原因
    人間の身体の中で最初に老化するのは脊柱。米国で国民の70%の調査結果
    ブラキエーションは直立二足歩行の前適応とはなり得ない。背骨にかかる負荷は対局。 ―― 腰痛患者に対する牽引療法
     その適応 ―― 太い足と大きな尻―片足1本の重さ、1/6。立ち上がる時の力、歩き続けるときの力。
  4. ヘルニアの恐怖
    ウエストから上の部分は特に問題ない。肋骨と強力な膜である横隔膜。
    哺乳類には腹に肋骨がない ―― 妊娠時の腹の膨らみに対応か。
  5. 立ちくらみ
    直立姿勢による、血液への重力の影響。逆立ちしてみると、逆にすぐ分かる。
  6. 足のむくみや静脈瘤 ―― 心臓への血流が直立によって阻害、四足動物に比べ、距離は2倍。
    特に妊婦―胎児の重みによって骨盤の太い血管が圧迫される。
  7. 痔の痛さ
    直腸や肛門に静脈瘤が出来たのが、痔。
  8. ホルモンに当たえる影響
    緊急事態に対応するホルモン「アルドステリン」=起立によって6倍に増える
  9. 高血圧
    血圧センサーは首の部分。足の部分は高血圧状態 ―― 内分泌系で調整しているが、直立により1日の間に目まぐるしく乱高下。

直立二足歩行獲得の、さまざまな説と、その問題点

「直立歩行の起源について、私たちはこれまですっかり勘違いしていたと云うことを、認めなくてはならない。強い先入観にとらわれていたことが、間違いの原因だろう」 ―― シャーウッド・うウォッシュバーン&ロジャー・レーウィン

※ こちら(直立 二足歩行 直立二足歩行)参照

  • 危険の察知
    例 ―― パタスモンキー、プレーリードック、ミーアキャット等
    反論 ―― 立ち上がって遠くを見渡す動物は例外なく、危険の接近を察知すると………全力で走り去る。そして当然ながら、パタスモンキーのようなサバンナの類人猿にとって、全力で走るとは、すなわち四足全部を使って走ることなのだ。
  • 獲物を追いかけ狩る為に
    主張 ―― 周囲に好物が満ち満ちていた森林の類人猿が草食を通したのに対し、それらの乏しいサバンナ類人猿は動物を狩らざるを得なくなった。
    根拠 ―― レイモンドダート論文(1953)、マカパンスガット洞窟から、ヒト化石と一緒に、砕かれたヒヒの頭骸骨を含む多くの動物の骨。
    反論 ―― 見つかったヒト化石自体が別の肉食動物の犠牲。
    何と言っても、ルーシーの発見(或いはそれ以後のより古いヒトの発見) ―― ヒトは大きな脳や道具、武器を使用しての狩りをする、はるか以前に、さらに言えばサバンナ形成前に直立二足をしていた。
  • 両手は採食専用として
    クリフォード・ジョリー論文(1970)、ゲラダヒヒ(一応二足歩行とされている―ただし大いに問題あり)の観察から。栄養価の低い草食の場合、1日のうち長い採食時間を必要とし、前肢はその為に忙しい。歩行につかわれない。
    反論 ―― ゲラダヒヒの採食事の移動は、直立ではなく骨盤より上の部分のみ。又殆ど三点保持―二足ではない。
  • 辛抱強い訓練の結果
    根拠 ―― 野生のチンパンジー、ゴリラなどに二足歩行の観察例が見られる。ヒトの場合その程度が高いだけ。
    反論 ―― イリノイ大学ジャック・プロスト、「四肢の動きも、間接周辺への力の掛かり方も大きく違っており、この二つの運動をともに”二足歩行”という同じ用語で呼ぶのさえ不適当に思える。(中略)この二つは全く別のものであり、一方が他方の極めて未熟な形で有ると云う意味においてのみ、似たような名前で呼ぶことが許されるだろう。
  • 食物運搬の為
    「人間の起源」(1981)、オーウェン・ラブジョイ
    ラブジョイは直立二足の起源を、サバンナでなく森で有るとした「まだ二本足でうまく歩けないうちにサバンナに出てゆき、そこで二足歩行を完成したとは考えられない。二本足で自由に歩けなければ、そこに出て行った筈がない。たちまち命を落としてしまう」
    狩りに出た祖先の男がねぐらで待つ女に食物を持ちかえる為。
    反論 ―― 霊長類のオスはメスに食物を持ちかえったりはしない。そもそも一夫一婦制をとっている種はテナガザルだけ。
    子育てにオスが関与して他の種より多くの子供を育てることを可能としている種としてマーモセットが有るが、食物を持ちかえることはしない。
    獲物を持ちかえるのに二足歩行をする動物はいない。通常三本足。
    決定的な矛盾 ―― 1雌1雄は直立二足歩行の結果であって、その原因には絶対にならない(何故ラブジョイ程のものが、こんな初歩的な間違いを犯すのか)。
  • 真昼の暑さを避けるため
    二足歩行起源の理由を日光に求める説は、1970年、R・W・ニューマンによって最初に述べられ、1884年、ピーター・ウィーラーによって整理された。
    四足では17%、直立で7%の日光照射。頭だけ頭髪が退化せず残った。
    反論 ―― 類人猿が立ち上がるのに大きなエネルギーが必要で、効果を帳消しにする。
    それほど熱に弱い生き物だったとすれば、日中に採食する生き方そのものを選択しない筈。
    共通した弱点 ―― サバンナに進出した霊長類は幾つもあるが(ヒヒ、ゲラダヒヒ、パタスモンキー、サバンナモンキーなど)どれ一つとして、暑さの為に直立した種はいない。

    

 

アクア説

直立二足歩行のメリットとデメリット

先ず従来の「直立二足歩行起源」説の大半は、サバンナ説に基づいている。これは既にサバンナ説そのものが、ルーシーやオロリン、サヘラントロプス・チャデンシス(トゥーマイ)などの発見により完全に破綻 ―― 彼らが二足歩行を始めた時、未だアフリカにサバンナは形成されていなかった。
「イーストサイド・ストーリー」提唱者である、イヴ・コバン自身、トゥーマイの発見を機に、自説を撤回している。

その上で敢えて言えば、従来のさまざまな説には共通した弱点が有る。
上記、「直立二足歩行はトンデモナク常識外れの移動様式」で示した、二足歩行のデメリットは、全て二足歩行を始めたばかりの時期に一番大きい。 それに引き換え、サバンナ説主義者の説で説かれる、二足歩行のメリットは、その最初には殆ど意味を持たない。 このような形質を、自然選択が拾う筈がない。

それに対し「アクア説」は、事態が逆になる。

  1. 水の中での直立姿勢は、死活的な選択圧となる。
  2. 二足歩行の、主に重力によるデメリットが、水の中では浮力により殆ど消え去る。

直立二足歩行獲得の時期

サヘラントロプス(トゥーマイ)の、700万年前と言われる推定生息年代が正しければ、共通祖先から分岐して、殆ど間を置かずに直立二足歩行を獲得したことになる。
そこに、「死活的」選択圧が有ったと考えないと、無理が出る。他の説では悠長すぎて説明がつかない。

最初ヒトの分岐問題に分子を持ちこんだのは、ヴィンセント・サリッチ、アラン・ウィルソン。その時の想定分岐年代は480万年-500万年前。
次に、チャールズ・シブリー、ジョン・アールクヴィストによる想定分岐年代は700万年前。
現在もほぼ700万年前とされている。それ以上古くなると、ゴリラとの分岐年代(900-1000万年前)との関係に矛盾が出る。

「アクア説」補強の傍証

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このページは、雄が2012年2月10日 08:47に書いたブログ記事です。

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