RE wadja さん
【ええもんみっけ 投稿者:wadja】
http://6609.teacup.com/natrom/bbs/9178
>京都大学霊長類研究所の記事で面白いのがあったので紹介しておきます
「タイの野生ザル?道具の使い方母親が伝授」
(略)
>仮にこれが事実だとしても、「言葉によらない概念的思考の証拠にはならない」、と言い張る人はいるかもしれませんけど。
「タイの野生ザル?道具の使い方母親が伝授」については、新聞の科学欄ですが、私も見ました。
仰る通りこれについても「『言葉によらない概念的思考の証拠にはならない』、と言い張る人」です、私は。
そもそも論になりますが.........、
概念は言葉と結びつき、言葉抜きには有り得ません。言葉が全て概念では有りませんが、概念は全て言葉によってなされます。
「サケは百薬の長だ」と言った時の「サケ」は、「アルコールを含む飲み物」と言う内包を持つ概念であり、この場合「サケ」と言う語を使う以外に、サケの概念を表すことは出来ません。徳利に入った酒や缶ビールを指さしても、それは個別・特定の酒やビールしか表すことが出来ず、つまり身振りで概念を表すことは出来ません。
※ 広辞苑『概念』からの抜粋
――概念は言語に表現され、その意味として存在する。――
従って「タイの野生ザル―道具の使い方母親が伝授」は、概念的思考にはなり得ません。
以前にも書いたことが有りますが、ニホンザルのコトバの観察・研究の中で、彼らに30とか40とかの「コトバ」が有ることが分かっています。
ただその特徴として、「分節の無さ」とか「恣意性」のほか、このコトバ(鳴き声のバリエーション)が発せられるのは、彼らの生存に直接関連するような、例えば天敵や獲物への対応だとか、ボスや交尾相手への対応だとか、要するに本能に直結した行動に限られるのだそうです。
だからこそ多少の「方言」は有るにしても、同じサル同士、群れを超えて通ずる訳です。
一方必ずしも本能的なものでない、後天的に獲得した新しい技術や情報は、音声でなく身振りで伝達されると言うことです。例えば幸島のイモ洗い等。今回の「デンタルフロス」もそう言う性格のものでしょう。
その際、一番先に理解するのは若いメスで、序列の高いオスは理解が遅いらしい。
今回の「母親からの、身振りによる伝授」は、この延長だろう、と言うのが私の感想です。
実は「人間の音声言語」の起源を考える時、この「身振りから音声へ転化」が私にとって、非常に大きな問題意識である訳です。
ヒトの進化の過程で、新しい事柄への対応に、どうして先祖たちと同じような身振りでなく、音声によって伝達するようになったか?
初心者ですさんが、次に述べておられる内容と、ピッタリ重なる問題意識です。
【すいません質問です。 投稿者:初心者です。】
http://6609.teacup.com/natrom/bbs/9042
>つまり、ここで僕が疑問に思ったことは脳の発達と言語の関係。
言語があるから脳が発達したのか、脳が発達したから言語が生まれたのか?
そもそも動物的コミュニケーションはそれはそれで、それぞれの種にしたがってある意味完結しているのにも関わらず、なぜ人は今の人の言語形態に発達する必要があったのか、又はできたのか?
又、なぜ動物は幼少期に人間の生活、言語環境にいるにも動物もいるにも関わらず、人足りえないのか?です。(動物の習性の範疇を超えることができない)。
この点で若しかしたらヒントになるかも知れない実験が有ります。
チンパンジーを使った、アメリカの心理学者、W・H・ハンターの実験です(古いのでソースを挙げることは出来ません。考え方の問題としてご理解下さい)。
ハンターは腹のへったチンプ2匹を同じ檻の中に入れ、檻の外に、チンプの好物のバナナ等を載せた台を置きました。
台には2本のロープが付けて有り、それぞれ片端は檻の中に入れて有ります。台は檻の中のチンプからは届かない位置で、かつ1匹がロープを引いても動かないが、若し2匹が一緒に引けば何とか動く程度の重さにして有ります。
ハンターは、こう言う特殊な状況を作って、若し食料を得ようとしたら、2匹のチンパンジーが否応なく共同作業をせざるを得ないように強制し、その共同作業を観察したのでした。
―― チンプ達は腹がへっているので、最初はバラバラにロープを引いたり、ダメなので諦めたり、ますます腹がへってくるので又引っ張ったりと、無駄な時間を経過させるのだそうです。
しかし無駄な努力が何回も行われたのち、片方のチンプが1本のロープをもち、他の1匹に身振りでお前も引っぱれと指図をしたそうです。
そこで2匹のチンプがロープを引くのですが、力を入れるタイミングが合わなくて、台は動かない訳です。
その結果、ハンターの報告するところによれば、1匹のチンプが鋭い叫び声を挙げ、そしてその叫び声を合図にして2匹が力を合わせてロープを引き、台を動かし、手を伸ばして餌がとれるところまで台を引きよせることに成功した、ということです――。
この実験はあまりにも人為的につくられた条件の中で行われているので、共通祖先から分岐した初期人類が、その進化の過程で言葉を獲得した状況を、そのまま再現しているとは言えません。
しかし両手でロープを引っぱっているというような、身振りで相手に意志を伝達する余裕のないときに、しかも相手に或る意志を伝達する必要がどうしても生じたとき、その伝達が音声によって行われたと言うことは、興味の有る実験結果だと思われます。
サルたちが有る程度共通の能力として持っている「身振りによる意思伝達」から、ヒトだけが持つ音声言語へと変わる契機は、おそらくこう言う状況の中で獲得されたのではないか、と思っているところです。
両手に道具を持っている、或いは大型の獲物に立ち向かっている時など、切羽詰まった状況で身振りによる意思伝達が困難な時、共同作業の中で音声言語の、最初の「ひとこえ」が発せられたのでしょう。
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