直立二足歩行の契機ー直立二足歩行の特殊性
ヒトの起源を探ることは、直立二足歩行の起源を探ること
人間は現在直立して二足歩行しています。それを当り前のこととして特に不思議には思っていません。しかし動物全体、或いはサルの仲間内に限っても、この直立二足歩行は極めて特殊な移動方法で、本来なら「有り得ない」ことです。
この「有り得ないこと」が、分子進化学が示す共通祖先との分岐の時期(およそ700万年前)から、殆ど間をおかずに起こったことが、化石などから分かっています。人類の起源を考える際にこの直立二足歩行に至った特別な理由、メカニズムの説明を避ける訳に行きません。
直立二足歩行の契機を説明できない、いかなる人類起源説も無意味だと思っています。
直立二足歩行の特殊性
唯一、人間だけ
地球上に何百万、或いは一千万を超える動物種が有るとして、その中で直立二足歩行と云う移動方法を常時取っているのは人間だけです。
時に直立をする動物種は、プレーリードッグ、ミーアキャットなど何種類も有るし、チンパンジー、ゴリラ、特にボノボ等、立って歩く(ことも有る)種も有ります。しかし直立二足歩行が、応急的ではなく常態の移動方法となっている種は人間だけです(チンパンジーの観察記録)。
※ ペンギンが例外的に「直立二足歩行」ですが、骨格など人間とは異なっています。
解剖学的に有り得ない
人間の直立二足歩行は、実は解剖学的に見ても、普通なら絶対に有り得ない移動方法だと言われています。
幾つか列挙して見ましょう。
○ 「この形 有り得ない………人間は失敗作だ」遠藤秀紀比較解剖学者)
先ずは現役の専門家の声。
数多くの動物解剖で知られる遠藤秀紀博士は、動物の骨格などとの比較で、ヒトの体は「トンデモナイ設計ミス」だと言っている。
番組でも「ホモサピエンスとは行き詰まった失敗作である」と述べている。
NHK番組「爆笑問題」
『進化の傷あと』
その「トンデモナイ設計ミス」の具体的な内容を、『進化の傷あと』(エレイン・モーガン)から、拾ってみます。
こちらにまとめておいたものの転載です。
○ 「全ての四足動物にとって、走る為に後ろ脚だけで立ちあがるなどと言うのは、およそ正気の沙汰ではない。実に馬鹿げた行為なのだ」 ―― オーウェン・ラブジョイ(44ページ)。
○ 直立二足歩行は「高い買い物」(45ページ)
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われわれは歩く塔
一般の哺乳類は「歩く吊り橋」 -
間違いだらけの設計図
脊椎の下部が太く、骨盤両サイドの蝶骨の端が腸の重みを支える受け皿のように平たく広がった、 ―― 数百万年かけての、幾分の改良。 -
腰痛の最大原因
人間の身体の中で最初に老化するのは脊柱。米国で国民の70%の調査結果
ブラキエーションは直立二足歩行の前適応とはなり得ない。背骨にかかる負荷は対局。 ―― 腰痛患者に対する牽引療法
その適応 ―― 太い足と大きな尻―片足1本の重さ、1/6。立ち上がる時の力、歩き続けるときの力。 -
ヘルニアの恐怖
ウエストから上の部分は特に問題ない。肋骨と強力な膜である横隔膜。
哺乳類には腹に肋骨がない ―― 妊娠時の腹の膨らみに対応か。 -
立ちくらみ
直立姿勢による、血液への重力の影響。逆立ちしてみると、逆にすぐ分かる。 -
足のむくみや静脈瘤 ―― 心臓への血流が直立によって阻害、四足動物に比べ、距離は2倍。
特に妊婦―胎児の重みによって骨盤の太い血管が圧迫される。 -
痔の痛さ
直腸や肛門に静脈瘤が出来たのが、痔。 -
ホルモンに当たえる影響
緊急事態に対応するホルモン「アルドステリン」=起立によって6倍に増える -
高血圧
血圧センサーは首の部分。足の部分は高血圧状態 ―― 内分泌系で調整しているが、直立により1日の間に目まぐるしく乱高下。
(直立二足歩行によるメスの難産、それに伴うペアボンド仮説)こちらも参照のこと。
直立二足歩行獲得の、さまざまな説と、その問題点
直立二足歩行を当たり前のこととしている現在の人間に取って、改めてその特殊性をを問題にすることは無いかも知れません。しかし上記したように「直立二足歩行」は、本来有り得ない設計ミスなのです。事実地球上の全ての動物種で人間と同じ直立二足歩行を移動の手段としている種は、人間だけです。
この特殊な移動方法である直立二足歩行の起源・契機について、様々な説が主張されてきました。その内容をざっと紹介するとともに、その問題点(反論)も挙げて見ます。
「直立歩行の起源について、私たちはこれまですっかり勘違いしていたと云うことを、認めなくてはならない。強い先入観にとらわれていたことが、間違いの原因だろう」 ―― シャーウッド・うウォッシュバーン&ロジャー・レーウィン
※ こちら(直立 二足歩行 直立二足歩行)も参照のこと。
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危険の察知
例 ―― パタスモンキー、プレーリードック、ミーアキャット等
反論 ―― 直立はしても直立二足歩行には至らない。
立ち上がって遠くを見渡す動物は例外なく、危険の接近を察知すると全力で走り去る。そして当然ながら、パタスモンキーのようなサバンナの霊長類にとって、全力で走るとは、すなわち四足全部を使って走ることなのだ。
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獲物を追いかけ狩る為に
主張 ―― 周囲に好物が満ち満ちていた森林の類人猿が草食を通したのに対し、それらの乏しいサバンナ類人猿は動物を狩らざるを得なくなった。
根拠 ―― レイモンドダート論文(1953)、マカパンスガット洞窟から、ヒト化石と一緒に、砕かれたヒヒの頭骸骨を含む多くの動物の骨。
反論 ―― 見つかったヒト化石自体が別の肉食動物の犠牲。
何と言っても、ルーシーの発見(或いはそれ以後のより古いヒトの発見) ―― ヒトは大きな脳や道具、武器を使用しての狩りをする、はるか以前に、さらに言えばサバンナ形成前に直立二足をしていた。
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両手は採食専用として
クリフォード・ジョリー論文(1970)、ゲラダヒヒ(一応二足歩行とされている―ただし大いに問題あり)の観察から。栄養価の低い草食の場合、1日のうち長い採食時間を必要とし、前肢はその為に忙しい。歩行に使われない。
反論 ―― ゲラダヒヒの採食事の移動は、直立ではなく骨盤より上の部分のみ。又殆ど三点保持―二足ではない。
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辛抱強い訓練の結果
根拠 ―― 野生のチンパンジー、ゴリラなどに二足歩行の観察例が見られる。ヒトの場合その程度が高いだけ。
反論 ―― イリノイ大学ジャック・プロスト、「四肢の動きも、間接周辺への力の掛かり方も大きく違っており、この二つの運動をともに”二足歩行”という同じ用語で呼 ぶのさえ不適当に思える。(中略)この二つは全く別のものであり、一方が他方の極めて未熟な形で有ると云う意味においてのみ、似たような名前で呼ぶことが 許されるだろう。
そもそも「進化に目的は無い」と云うのは現代進化学の常識。自然淘汰は今現在の適応的な形質だけしか拾ってくれない。将来の得べかりし利益の為に現在「訓練」すると言うことは否定されている。
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食物運搬の為
「人間の起源」(1981)、オーウェン・ラブジョイ
ラブジョイは直立二足の起源を、サバンナでなく森で有るとした「まだ二本足でうまく歩けないうちにサバンナに出てゆき、そこで二足歩行を完成したとは考えられない。二本足で自由に歩けなければ、そこに出て行った筈がない。たちまち命を落としてしまう」
狩りに出た祖先の男がねぐらで待つ女に食物を持ちかえる為。
反論 ―― 霊長類のオスはメスに食物を持ちかえったりはしない。そもそも一夫一婦制をとっている種はテナガザルだけ。
子育てにオスが関与して他の種より多くの子供を育てることを可能としている種としてマーモセットが有るが、食物を持ちかえることはしない。
獲物を持ちかえるのに二足歩行をする動物はいない。通常三本足使用。
決定的な矛盾 ―― 1雌1雄は直立二足歩行の結果であって、その原因には絶対にならない(何故ラブジョイ程のものが、こんな初歩的な間違いを犯すのか)。
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真昼の暑さを避けるため
二足歩行起源の理由を日光に求める説は、1970年、R・W・ニューマンによって最初に述べられ、1884年、ピーター・ウィーラーによって整理された。
四足では17%、直立で7%の日光照射。頭だけ頭髪が退化せず残った。
反論 ―― 類人猿が立ち上がるのには大きなエネルギーが必要で、効果を帳消しにする。その事情は直立を始めた初期程顕著で有った筈。
それほど熱に弱い生き物だったとすれば、日中に採食する生き方そのものを選択しない筈。
共通した弱点 ―― サバンナに進出した霊長類は幾つもあるが(ヒヒ、ゲラダヒヒ、パタスモンキー、サバンナモンキーなど)どれ一つとして、暑さの為に直立した種はいない。
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省エネ説
二足歩行は四足に比べ、特に長距離移動にはエネルギー消費の点で有利だとする説です。実験やら何やらでその正当性を主張していますが、他の説と比べてさえ決定的な矛盾を抱えています。
その内容と反論について、こちら参照。
サバンナ説=イーストサイド・ストーリーの破綻
ここで挙げた様々な「直立二足歩行起源」説は、結局殆ど「サバンナ説=イーストサイド・ストーリー」を前提にしています。つまりサバンナへの適応メカニズムの主張です。
次ページで述べますが、この「サバンナ説=イーストサイド・ストーリー」自体、今破綻が明らかになっています。つまりそれを前提にしたあらゆる直立二足歩行起源説も又、根こそぎ破綻することとなります。
その辺は、こちら参照のこと
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