眼の構造の常識・非常識

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眼とカメラはどこが同じで、どこが違うのか? 専門書などでも結構有る誤解と非常識。

先ずはその辺から探ってみましょう。

光と屈折について、意外と深い理屈が分かって来る(...かも知れない)。

    

 

眼の構造

最初に、よく本などで見かける眼の構造図を掲載しておきます。

   

eye_1.gif

眼は、非常にデリケートなものだと言われます。確かに眼は脳の直接の延長でもあり、他の器官と比べてもデリケートであることに間違い有りません。

 

同時に眼は、結構丈夫なものだという気もします。「眼がかゆい」とか言って、まぶたの上から相当乱暴にこすっても、目玉が破裂したなどと聞いたことはありません。
強膜で囲まれ、房水や硝子体で眼圧が保たれている眼は、意外と丈夫なのかも知れません。

眼の焦点に関する定数

次に眼の、主に、光学的な屈折に関する用語、並びに平均的な定数を記載しておきます。

eye_syoten.gif

  • 角膜の湾曲半径............8mm
  • 眼房の深さ..................4mm
  • 水晶体の厚さ...............4mm
  • 眼球の直径(眼軸長)...24mm
  • 水溶液の屈折率............1.33
  • 角膜の屈折率...............1.37
  • 水晶体の屈折率............1.43

 

眼とカメラ

眼の構造について、カメラに例えて説明している文献をよく見ます。
或いは逆に、カメラの構造の説明に眼を並置している場合が有ります。

eye_3.gif眼とカメラ比較図例えば、右図のような具合です。

  1. 外からの光の量が、絞り(虹彩)で調整され、
  2. レンズ(水晶体)で屈折され、
  3. フィルム或いはディジカメのCCD(網膜)に結像する。

※ ( )内が眼の場合です。

...と理解しているケースが多いようです。.........がしかし、
この中で大きな誤解が一つ有ります

 

カメラのレンズと、眼の水晶体

確かに強膜で囲まれた「眼全体とカメラの暗箱」、「虹彩とカメラの絞り」、「網膜とカメラのフィルム或いはCCD受光素子」との関係は、本当に良く似ています。
しかし、眼の水晶体とカメラのレンズの機能は少し違います。
同じ凸レンズで、配置されている位置も似通っているので思い込みの誤解も有るのでしょう。

 

屈折の主役は、角膜表面

eye.gif

最初に正解を言っておくと、カメラのレンズに該当する機能を負っているのは、主に眼の表面、つまり角膜表面です。
眼全体の屈折力が約60D(Dは、ディオプトリ或いはディオプタの略で、屈折力の単位)と言われていますが、そのおよそ2/3の屈折力を角膜表面が担っていると言うことです。
水晶体もそれ自身は確かに強い凸レンズで、大きな屈折力を持っています。しかしそれはあくまでもそのレンズが「空気中」に配置されている場合です。
カメラのレンズが屈折力を発揮するのは、カメラのレンズが空気中に配置されているからで、そのレンズを若し水の中に置いたら殆ど屈折力を発揮できず、水と見分けるのは難しいことになります。

一般的に光の屈折は、

  • ある媒質(例えば空気)から別の媒質(水とか硝子)に進入するとき、
  • その媒質同士の屈折力の差
  • 進入角度によって、
  • 媒質の境界で生じます。

水晶体はカメラのレンズと違い、眼球の内容物(房水或いは硝子体)の中に配置されていて、それぞれの屈折力の差はあまり有りません(上記、屈折に関する定数参照)。
つまり、水晶体がどれほど強い凸レンズであったとしても、同じような組成の眼の内容物の中に配置されている限り、それ程の屈折力を発揮することはできません。それでも屈折力全体の1/3、約20Dを水晶体が担っている訳ですが、カメラのレンズのように屈折の主役にはなっていない訳です。
水晶体の機能は、その厚みを変えることによっての「調節力」、つまりはピント(焦点)距離の微調整を担っているのです。調節力については後述します。

従って眼の屈折の模式図を書くとすれば右上図のようになります。
最初に角膜表面で屈折の大半を担い、必要に応じて水晶体で調節をすると云う感じです。

※ 調節力によって、ピントの合う距離を変えることと、カメラのレンズを前後に動かしピントの距離を変えることは機能として同じです。その点では共通性が有ると言えます。

角膜表面と屈折

光の屈折は、「屈折力の違う媒質に進入する際に、媒質同士の屈折力の差と進入角度によって、媒質同士の境界で生じる」、と言う意味で眼の屈折力を担う主役は「角膜表面」つまり眼の表面です。

空気中を進んできた光が、角膜表面に当たったとします。
空気と眼の内容物とでは屈折力の差が大きいので、その境界つまり角膜表面で光が曲がるのですが、角膜は球状に強く湾曲しているため進入角度の差が生じ、結果的に強い凸レンズの機能を果たし、光を収束し網膜上に像を結ぶのです。
もちろんその際、上述したように水晶体も屈折の役割をいくばくか担いますが、主役では有りません。

※ 水中における視力

水中で眼を開けたとき、通常はボンヤリとしか見えません。それは角膜が水と接触し屈折力の差があまり無くなり、結果的に強い遠視状態になるからです。
水の屈折力は1.336、角膜の屈折力は1.3375で、その差は殆ど無いに等しい状況です。つまり水の中では屈折の2/3・約40Dを担っている角膜の屈折力は殆どキャンセルされることになりますから、結果的に非常に強い屈折不足(=遠視)状態になる訳です。

水中生活をしている魚類の眼は、従って角膜表面での屈折が殆ど得られないので、水晶体を厚くして(殆ど球形)屈折力を得ています。
煮魚を食べるとき、ゼラチン状の眼の中に白い玉を認めるが、これはたんぱく質の熱変性によって、白色固化した水晶体です。
水晶体の組成は主に、クリスタンと呼ばれる透明なタンパク質であり、上述したように、身体の他の組織と比較しても水晶体の蛋白含有率が高い。 その為、熱変性による白色固化も顕著です。

※ マレー半島に「モーケン族」と言う少数民族がいます。ほぼ1年中家船で海上生活をし、魚介を採取して暮らしているのだそうです。
このモーケン族の「驚異的な」視力が注目され、遺伝子的な違いも含めて研究が進められているようです。何しろ地上(海上)での視力が、8とか9とか、半端じゃ有りません。カメラで幾らズームアップしても識別できない対象をやすやすと見分けられるとのこと。この点ではアフリカのサン族とかの狩猟採集民と共通性が有るように思われます。
問題はこのモーケン族が、海中でも水中メガネ無しで普通に、不自由なしに見えるそうなのです。普通の人の8とか10倍の水中視力を持っているとのこと。上記したように、本来空中視力と水中視力は両立しない筈です。若し水中でよく見える眼を持っていたとしたらその人は普通、強度な近視で有る筈だからです。正に「非常識」です。
研究の結果、視細胞錐体の数が多く密集しているとの記事を読んだことが有りますが、しかし未だ完全な解明には至っていないようです。

※ 「光」「媒質」と屈折の関係については、光の屈折を参照。
    「眼」の生理的機能には直接関係無いかも知れませんが、上記既述を理解する上で、押さえて置くとその理解が深まるでしょう(と、信じたい)。

    

 

水晶体の組成

クリスタンタンパク

光を良く通し、調節のために瞬時にその厚みを変える水晶体の特徴を発揮する為、水晶体は、透明性と弾力性の両方を兼ね備えていることが必要です。
その両方の機能を発揮する為、水晶体の成分は、非常に高い含有量のタンパク質で出来ていて、およそ33%の含有率です。この値は、身体の器官中最大です。ちなみにタンパク質の塊のような感じのする筋肉でさえ、20%程度と言います。
水晶体タンパク質の90%は、クリスタンとよばれるタンパク質ですが、水晶体の中では、その並びかたも整然と配置されていて、光の乱反射などを防ぎ、透明性を高めています。

加齢による水晶体への影響

水晶体は、一つのカプセルに閉じ込められていますから、細胞にしても、クリスタンを中心とするタンパク質も新陳代謝、つまり入れ替えが有りません。一生同じものを使い続けることになります。その為、老化に伴う色々な問題が発生します。
例えば、古くなった細胞が中心部に押し込められ、圧縮され水晶体が固くなり、弾力性が失われてゆきます。これは調節力の低下につながり老眼の一原因となります。

もう一つは、紫外線による組成の変化です。紫外線のなかで波長の長いA波が水晶体まで届き、活性酸素などと化学変化を起こします。それにより透明だった水晶体が黄色く濁って来ます。これが白内障です。
黄色の補色は青です。 水晶体が黄色に濁ると、補色である青が吸収され網膜に届きにくくなります。白内障の手術により、人口水晶体に変えた人は、先ず空の青色に感動するそうです。

 

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