正視・近視・遠視-2

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正視、近視、遠視 の常識・非常識-2

引き続き、正視、近視、遠視について、特に「調節力と遠視の関係」を軸に考えて見ましょう

    

 

調節力

調節力を定義すると次のようになります。

「毛様体の中にある毛様体筋が収縮することにより、チン氏体が弛緩し、その結果チン氏体によって支えられている水晶体が、それ自体の弾力性によって厚さをまし、眼球の屈折力を高める機能」

図で表してみます

tyosetu.gif

  1. 「毛様体筋」が、水晶体をリング状に囲んでいます。
  2. 毛様体から「チン氏帯」と言う糸状のものが伸び、そのチン氏帯によって水晶体が吊り下げられています。
  3. 毛様体筋が収縮すると、リングが縮み、
  4. チン氏帯が緩み、
  5. 吊り下げられている水晶体がその弾力性によって膨らみ、
  6. その結果、眼球の屈折力が増します。

この際注目すべきは、水晶体を薄くする方向への調節力は無い、と言うことです。つまり屈折を強める調節力は有るが、屈折力を弱める調節力は無いのです。
このことが、近視にはメガネが必要だが、遠視にはメガネを必要と感じない場合が有る、ことにつながります。

 

調節力の働き

調節力は、近くのものにピントを合わせる機能です。
人は遠いところばかり見ている訳ではなく、さまざまな距離に視点を合わせています。その視距離に合わせ常に調節力を働かせその距離にあった屈折力を得ているのです。
調節は視距離に合わせ、殆ど瞬間に、自動的に行われているので、それを意識することは殆ど有りません。特に若いときは。
カメラのオートフォーカスと同じですね。

tyosetu_2.gif

調節力と年齢

......と言うことで、調節力と年齢です。
調節力は年齢に(殆ど)比例して衰えて行きます。それは調節力の担い手が「毛様体筋」の力と「水晶体の弾力性」と言う、年齢に直結した機能だからです。
調節力が衰えて、近くにピントを合わせられなくなる現象、これが「老眼」です。

下に平均的な、年齢ごとの調節力表を掲載しておきました。
「近点」は、明視(ハッキリ見える)可能な最も近い距離です。
40歳位から急速に衰えているのが分かります。45歳は老眼鏡年齢と言えます。

データは調査によってそれぞれ若干違います。一つの目安として下さい。

年齢の違いによる調節力
年齢 調節力 近点
10歳 12D 8.3cm
20歳 8D 12.5cm
30歳 7D 14.3cm
40歳 4D 25cm
50歳 1D 100cm
60歳 0.5D 200cm

 

※ 調節力を現す単位もディオプター( D )です。

 ※ 近点は、明視(ぼやけずに)出来る最も近い距離のことです。

 

 

調節力と焦点距離

屈折力と焦点距離は「逆数の関係」にある。と前ページで述べました。
4Dの屈折力を持つレンズの場合(1割る4イコール0.25となり、焦点距離は25cmとなります。
調節力も全く同じことです。調節力4Dを働かせた状態の眼では、ピントの合う距離を無限遠から25cmに近づけることが出来ます。

 

再び近視・遠視、特に遠視について

本来、近視と遠視は、+ と - の違いは有っても、要するに網膜からの距離的ギャップです。(計算上、焦点の位置が網膜から、前・後1mm離れると、マイナス・プラス3Dの屈折の違いが出ると言われています)。
バラツキという意味で近視、遠視の人は同じくらいの割合で居ても良さそうに思われます。それがそうでは無く、近視だけがやけに目立つのは何故でしょう

一つ考えられることは、成長に伴う眼軸の伸びによって、幼児のときに遠視だった人も、正視或いは近視に変わり、絶対数としての遠視が少ないのかも知れません。
しかしどうもそれだけでは近視、遠視の、ここまでの数的片寄りを説明できないような気がします。
その謎を解く鍵が「調節力」です。

屈折を弱める調節力は無い

近視は、屈折力の強すぎる眼ですが、屈折を弱める調節力は無い為、近視の度合いがそのまま見えにくさ、視力の低下につながります。
視力検査で簡単に見つけることが出来ますし、解決法としてはメガネやコンタクトレンズに頼るしか有りません。つまり顕在化しているのです。

遠視は調節力でカバーできる場合が有る

遠視は、屈折力が弱すぎる眼で本来は網膜の後に結像する筈です。
しかし眼には調節力が有る為、多少の屈折力不足はその調節力で吸収され、視力の低下を招くことが有りません。
特に若いうちは調節力が旺盛で、軽度の場合自分が調節していることを意識することは全く有りません 。それどころか自分が遠視であることさえ意識しない(知らない)場合も多いでしょう。
屈折を測る機械(レフラクトメータ)で検眼しても、指標を見るとき無意識に調節してしまうので、遠視かどうかの発見が出来ない場合が多いのです。
調節麻痺剤を点眼して測定する事で、調節の影響を排除した本来の屈折度を測ることが出来ます。しかし特別なことでもない限り、普通こんな事はしませんよね。

※ 例えば、 -1Dの近視(近視の度数はマイナスで表す、と言うことは上記で述べました)が有ったとします。
-1Dと言う近視は、眼の前1メートルまではハッキリ見えるがそれ以遠はぼやけてくる、と言う程度の度数です(1割る1D=1メートル)。
メガネ無しで街を歩けない程ではないかも知れないが、自動車の免許はメガネが必要、と言った程度の近視です。要するに世間がややぼやけて見える程度です。視力を測ると、0.4程度になるでしょう。

+1Dの遠視も本来は同じくらいぼやける筈なのですが(但し、遠視は近くがぼけます)、例えば30歳の人にとっては、7Dの調節力(上掲、年齢ごと調節力表参照)に簡単に吸収され、それを意識することも無いでしょう。
ですから、本当はもっと多く遠視の人が居ると思われるのだが、調節力の中に吸収され、顕在化していない部分が結構あると思われます。

老人性遠視

加齢に伴い調節力が低下してきます。それによって遠視の度が吸収しきれなくなり、遠視が顕在化してきます。いわゆる「老人性遠視」です。

    

 

近視と遠視、特に遠視の症状あれこれ

近視の症状

近視の症状は比較的単純で、近視の度数にほぼ比例して視力が落ち、そのカバーのためにはメガネやコンタクトレンズが必要です。
また強度近視については網膜剥離の危険を考慮する必要があります。
この点については既に述べました。

遠視の症状

問題は遠視です。
遠視が有っても調節力で補われ、視力に影響が無く、しかもそれを意識することも殆ど無い、とすれば、遠視が有っても問題無いじゃん、少なくとも若いときは、と思うかも知れません。
しかし、実は遠視は場合によって近視より怖いのです。

眼精疲労

先ず問題になるのが眼精疲労です。
遠視の人は近くを見るときは勿論、遠くを見るときにも常に調節が必要です。 そして人には「明視本能」と言うものが有って、眼を開けているときには無意識にハッキリ見ようと努力してしまいます。つまり調節をしてしまいます。
調節は毛様体筋の緊張、つまり筋肉の働きですから、要するに疲れます。
眼がショボショボする、肩や首がこる、読書が長続きしない等の症状が有ったら遠視を疑っても良いでしょう(老眼も同じ症状です。或いは乱視も)。

近視は、メガネなしでは見えにくい、と言う不便は有るものの、逆の調節力を働かせると言うことが、したくても出来ないので、その意味で眼精疲労からは開放されている、と言えます。

遠視性弱視

遠視で一番深刻なのは「遠視性弱視」です。
人間の視力と言うものは、生まれながらにして備わっているものでは無く、生まれたばかりの赤ん坊は、最初は明暗くらいしか認識できないらしいのですが、母親の顔やおっぱいを見て、学習することで獲得して行くものです。
そして、視力というものは単に屈折だけの問題ではなく、それを認識し解析する視神経、脳の働きなど、全て総合したシステムです。しかもそういう基本的な機能は、獲得する時期と言うものが成長過程で決まっていて、視力に限らず言葉でも何でもその時期に獲得出来なかった場合、後でその埋め合わせは大変難しい。

ところで近視の赤ん坊は、遠くはともかく、近くのもの、母親の顔やおっぱいなどは、ハッキリした像を網膜に結び「見る学習」をすることが出来ます。
しかし遠視は、調節無しでは近くは勿論遠くもハッキリ見えない眼です。 そしてその調節力も又、成長の過程で学習によって身につけるのですね。
ある程度強い 遠視を持った赤ん坊は、時として一度もハッキリした網膜像を経験しないまま成長すると言うことになります。この場合システムとしての視力が損なわれてしまい、後になってメガネなどで屈折を合わせても回復できない、と言うことが有り得ます。
つまり「遠視性弱視」です。

弱視は屈折だけの問題ではないので、メガネで矯正することは出来ません。弱視レンズで、文字などを拡大してその形を認識するなどの方法をとることがあります。
若し赤ちゃんの目が、お母さんや色々なものに対し反応せず視線で追わない、などの症状が有ったら、一度病院で相談したほうが良いでしょう。

遠視性斜位・斜視

斜位、斜視もまた遠視と関係している場合が有ります。
斜位、斜視とは大雑把に言って、見ようとするものに両方の視線を合わせるのが困難、または不可能な眼です。 やぶにらみ、ロンパリ(ロンドン・パリ)等と言われますね。

輻輳との関係

遠視は常時、調節を強いられます。
調節は調節筋の働きにより、ピントを近くに引き寄せる機能ですが、同時にその距離に両眼の視線を合わせる機能と連動しています。
遠くを見るときは視線もほぼ平行ですが、近くを見るときにはその距離に視線が揃います。これを「内寄せ」或いは「輻輳」と言い、輻輳筋の働きで眼球の向きが内側に寄ることによって機能しています。
調節筋と輻輳筋は連動していて、本来ピントの距離と視線が向く距離は正しく一致している訳です。

ところが遠視は、ピントを合わせる距離と輻輳の距離に、常にギャップが有ります。遠くを見るときにも常に調節をしている為、ピントは無限遠に合っているのに視線は近くの1点に合っているという具合です。
このピントと輻輳のギャップが激しくなると正しい両眼視が出来ず、「複視(ものが2重に見える)」などの現象が出てきます。 こういう現象は、眼が2個有る為におきる現象で、カメラのように1眼の場合は起こりにくいと言えます(片眼複視と言うのも有って、皆無では有りませんが)。
このピント位置と、視線の位置のギャップが激しくなり、複視などの障害が甚だしくなると、片方の眼に「見ること」を放棄させます。
放棄された眼は、視線から外れると同時に多くの場合弱視になります。どこでもそうですが体の器官で使わない部分は直ぐに衰えてしまいます。

以上の症状は遠視なら必ずなる、と言うことでは有りません。
事実私は、おそらく +1.0D位の遠視ですが(最近検眼していませんが、総合的にそう判断出来ます)、上記について何の問題も有りません。
ただ、遠視は「良すぎる眼」とか言うことで、近視に比べ問題を軽視するべきでは無い。ということだけ言っておきたかったのです。

 

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