覚書- 09 経団連の堕落と資本主義

米倉経団連会長の「資本主義でないようなことをやってもらっては困る」発言

「菅内閣が財界からの要求に応じて、法人税率5%の引き下げを決定、その財源も含めて消費税率アップ(予定としては5%)を画策している。

菅 総理は「成長と雇用による国づくりで元気な日本を復活させる(年頭所感)」として、法人税率引き下げによって企業の雇用増加を期待した(らしい)のだが、 経団連の米倉会長は、法人税引き下げの条件として企業側が雇用確保などを約束すべきという意見が出ていることについては……、
「私が約束したとしても経済界がやってくれるかどうか。経団連は予測値を提出済みだ。資本主義でないようなことをやってもらっては困る」
…と、にべもない。

そして、法人税率引き下げ後の消費税率引き上げ、環太平洋経済連携協定(TPP)の実行を、菅内閣に強力に申し入れている。

「法人税率引き下げ→消費税率引き上げ」は、大企業優遇・庶民いじめを、絵に描いたように見せてくれる。
赤字を抱えている多くの中小企業にとって、法人税率引き下げの恩恵は全くないし、内部留保を229兆円も積み増し、ダブつかせている大企業にとって、法人税率の引き下げは更なる内部留保の積み増しに繋がるだけで、国内投資には繋がらない。

第一、研究開発減税や外国税額控除等、様々な控除を勘案すると、実質の法人税負担で日本は決して高く無い。SONYは12%だし住友化学は16%、パナソニックで17.6%となっている。
三大メガバンクは不良債権処理の損失相殺として、10年以上法人税がゼロになっている。

消費税率引き上げは消費を抑制し、更に国内市場を狭くする。
価格に転嫁できる大企業にとって、消費税の負担は殆どない。

…と、言いたいことは幾らでも有るが、今ここでそれには触れない(触れちゃったけど)。
私が言いたいことは、上記経団連会長、米倉、或いは前会長御手洗に見られる、近視眼的見識の無さ、堕落だ。

個々の企業の利益と資本主義全体の利益は一致しない

御手洗が経団連会長を務めた当時のキャノンは偽装請負問題を引き起こし、共産党の志位委員長などから国会でも追及されたし、御手洗自身経団連会長の立場で人材派遣の規制に激しく抵抗し、「派遣労働者の敵」等とも呼ばれた。


米倉の「雇用を約束は出来ない」発言、御手洗の「人材派遣規制反対」も、或いは購買力とコストカットを求めて、企業が海外に出払うのも資本主義である以上、個々の企業にとってはある種当然の発言であり、選択肢と言える。
資本主義は自由競争であり、常に利益の最大化と資本の効率的運用は、競争に勝ち残る為の至上命令であり、それを怠った企業は倒産する。

しかし、「財界の総本山」たる日本経団連の会長が、そのお先棒を担ぐような発言をし、その実施を、政治献金にもの言わせて時の政府に要求していたら、日本の資本主義は一体どうなるのか。

資本主義の問題は、個々の企業の利益と全体の利益が一致しないことだ。
自由競争と市場原理と言う、資本主義の原理に全て任せた時(小泉・竹中の5年間はその典型だが)、往々にして資本主義そのものの土台を掘り崩す。

リーマンショック以降日本は、先進資本主義国の中で唯一、成長の止まった国と言われている。実際に世界経済における日本の位置は下がりっ放しである。
昨日(2月6日、8時台)NHKのテレビで、日本のトップ企業のトヨタでさえ、今世界の企業ランクで32位だと言っていた。トヨタにしてこのザマなら他の企業は押して知るべしだろう。かっては日本の企業が、キラ星のごとく上位に並んでいたと言うのに。

そう言えばトヨタの奥田碩は、御手洗の前、新体制になった経団連の初代会長を務めている。このトヨタの、いわゆる「かんばん方式」「カイゼン」の弊害については、この後直ぐに触れる。

理由は明白だろう。
派遣やリストラなど、行き過ぎた労働環境の規制緩和で、国内の購買力を極端に落とした。国税庁の「民間給与実態統計調査」でも、9年連続で給与が減少しているとの結果を出している。こんな国は先進資本主義で日本だけだ。

派遣やアルバイトの横行は、企業への帰属意識を低下させ、長期的な技術の継承を困難にしている。
トヨタのかんばん方式や、「乾いたタオルを絞る」下請単価の買い叩きによって中小企業を疲弊させ、東京太田や東大阪市の、日本の宝と言われたその技術力の継承を、これも困難にしている。
アメリカにおけるトヨタ自動車リコール問題の基礎に、かって日本が誇った技術・品質への疑問を感じたのは、私だけではないだろう。


繰り返すが、個々の企業が人件費を削減し、残った社員に長密労働を強い、下請単価を叩いて中小下請け企業を虐めるのは、いいことではないが資本主義的競争の中では、ある程度止むを得ない面はある。
だが、日本資本主義の頭目である経団連のトップが、そのお先棒を担いでどうなる。

規制の必要と「規制緩和」

実はもう30年以上前になるが、経済界からの立場で、日本のルールなき資本主義に対し、警鐘を鳴らした人がいた。
ソニーの創立者の一人である盛田昭夫氏が、大要次のようなことを述べたことが有る。
当時は日本の長時間過密労働を背景にした低価格製品で輸出攻勢をかけ、それが特にアメリカで貿易摩擦として問題化、日本車に火を付けたり日の丸を燃やしたりと、「ジャパンバッシング」が大きな問題になっていた時期だ。

盛田氏の発言
「世界の資本主義の基準からも外れた、日本企業のこんなやり方を続けていたら、日本は世界から相手にされなくなってしまう。日本企業ももう少し国際ルールに従った商売をするべきだ」として、しかし同時に盛田氏は次のように言う。

「このこと(ルールある商売)は、個々の企業に任せて出来ることではない。進んで労働時間の短縮や賃金アップをしたら、その企業は競争に負けて直ぐに倒産してしまう。
だから、国が、政府が全ての企業に網をかける形で、法律によって規制をしなければダメだ」と。

この見識については、全くその通りだろう。
日本共産党も盛田氏のこの発言は評価していたし、立場の違いは違いとして共通性を見出していた。

今 でも心ある企業経営者の中には、雇用の非正規化や下請け叩きばかりやっていたら、日本の資本主義はますます脆弱でいびつなものになる。個人消費は冷え込 み、将来の人材育成も、日本の宝である技術の継承も滅んでしまうと、真剣に心配している人も(多分)大勢いると思う(思いたい)。

しかし個々の企業と全体の利益は、往々にして一致しない。
個々の企業や経営者が、仮にそう思っていたとして、それをやった良心的な企業は、自由競争の中で、結局倒産してしまう。
盛田氏が言ったように、それは国が法律と言う形で規制しなければ実現しないのだ。


逆にその規制を取っ払って、全てを自由競争、市場原理に任せればうまく行く、と、その通りに規制緩和を極限まで推し進めたのが、小泉・竹中の5年間であり、それが今に続く。

弱肉強食の自由競争に全て委ねた時、強いものはより強く、弱いものが淘汰されるのは当然だとして、しかしそのことによって日本の資本主義そのものが、成功したかどうか、結果を見れば一目瞭然。日本だけが成長の止まった国になり下がっている。
日本のトップ企業トヨタの、世界ランキング32位が如実にそれを示している。
個々の企業の利益最大化は、全体の利益に繋がらないのだ。それが分かっていてその競争から抜け出すことが出来ない、それが資本主義でも有るのだが。

竹中平蔵は日本を荒らすだけ荒らし、権益を米国に売り渡しながら自分だけは、人材派遣会社パソナの特別顧問を経て、代表権が無いながらも会長に就任している。
この品性下劣な男は、未だに「日本が成長出来なかったのは、規制緩和が不十分で終わったからだ」等とホザイテいる。
………オットット、ついつい頭に来て乱暴な言葉を使ってしまった。

ついでに言えば、この竹中の「…規制緩和不十分」説に対し、辻井喬(堤清二)氏が、痛烈に皮肉っている。
「竹中のこの言い分は毛生え薬売りと同じだ。つまり、毛が生えてこないのは未だ薬が足らないからだ、と言っているに過ぎない」と。

「自由競争」「自己責任」を放棄した資本主義とダブルスタンダード

一昨年の春からほぼ昨年いっぱい、エコカー減税、家電・住宅などのエコポイント事業が実施された。
「エコ」は口実、実際はリーマンショック以降の景気・消費低迷を打開する為の、税金を使ってのあからさまな業界支援策だったのだが、お蔭でトヨタ始め自動車業界、家電、住宅産業などは多いにその恩恵を受けて販売を伸ばした。
いわば国民の税金で、何千億円もの下駄を履かせて貰っての商売だった訳だが、このどこが一体「自由競争」の資本主義なのか。

自らバブルを引き起こし、それが崩壊した後の不良債権を、公的資金と言う名の税金で処理して貰い、更には10年に渡って法人税の支払いを免除して貰っているメガバンクの、一体どこが「自己責任」の資本主義なのか。

No.41 の冒頭で、法人税率5%引き下げに伴う、雇用確保の約束に対し、「………資本主義でないようなことをやってもらっては困る」との、米倉経団連会長の拒否声 明を紹介したが、片腹痛いとはこのことだ。こう言うのを日本語で「ご都合主義」、英語で「double standard」と言うのではないのか。

ご都合主義は更に続く。
民 主党が、公共事業受注企業を含め政治献金全面受け入れを表明した際、米倉はこれを「多いに歓迎」しているが、エコポイント制や法人税を引き下げて貰わなけ ればならない程厳しい(筈の)経営環境の中で、どこに「政治献金」出費を歓迎する余裕が有ると言うのか。ワイロとしての効果が顕著だからこその、あからさ まな「多いに歓迎」表明だろう。

TVドラマ水戸黄門じゃないが「越後屋、おぬしも悪よのう、ウォッホッホッホ…」と、昔は隠れてやっていた袖の下・ワイロを、「政治献金」と言う名で合法化し、昼日中堂々とやっているに過ぎないではないか。
一体どこに、「日本経団連」と名乗って、日本資本主義の総本山、頭目としての矜持や誇りが有ると言うのか。

かって、言葉としては「産業報国」と言う言葉が有った(戦時中の「産業報国会」では無くて)。国と国民のお蔭で商売が出来たのであり、産業を通して恩返しをする、と言った意味だろう。

今、大学を卒業しても職が無く、青年の多くは非正規雇用。企業にとっても経験や知識の蓄積・継承が望めない。中小企業の多くは経営難で、日本の宝、職人技が途絶えようとしている。
働いていても生活が出来ない程の不安定・低賃金下での、ワーキングプアの深化。10年も続く勤労世帯の所得減。そして10続く年間3万人の自殺者。
劣悪な保育環境と相まって、少子高齢化の進行。

こんな中で一人、大企業だけが229兆円もの内部留保を積み上げ、更に税金を負けて貰うと言う。
既に言葉としての「産業報国」も完全に死語となって、今は聞くこともない。

そんな国民から完全に遊離した経団連・財界と、これまた国民から遊離した自公政権が、ワイロと便宜のやり取りを続け、それが民主党政権に引き継がれている。
民主党のごときは党運営の9割を政党助成金(税金)に頼り、その上今回の企業献金全面復活。さしずめ「寄生政党」と言うべきか。

既に指摘しているように、資本主義では個々の企業の利益と資本主義全体の利益は往々にして、或いは常に往々にして一致しない。

特にそのルールが確立しないまま、極端な規制緩和、新自由主義に走っている日本で資本主義のいびつさが際立つ。
企業同士が食いあい、低価格消耗戦に陥り、強いものはより強く(ネットと相まって、1位かそれ以下か、の傾向になる)、弱いものは淘汰される。

勿 論その直接の被害者は、派遣切り・就職難民の労働者階層、下請中小企業、大手に食い荒らされた個人商店街、それによって買い物難民になった地方の住民等、 総じて国民一般大衆だが、そのことを通して国内市場を更に狭め、技術の継承を困難にし、資本主義そのものの土台を掘り崩す。

各企業は国内市場に見切りを付け、中国だベトナムだ、アメリカだと海外に販売と投資先を求め、それが又、円高となって自らの首を絞める。或いは政情不安定な投資先国の動向に、神経を尖らせる。
今また、国内の農業を壊滅させ、国民の食糧の安定確保を危うくさせ、国土と地方を崩壊させるTPPなるものを締結して、自分達だけの貿易環境を整えようとする。

大卒・高卒の就職難、一方的な派遣切り、ホームレスへの転落、年間3万人の自殺者等を見ていると、チャップリンの映画に出てくるような、19世紀のルール無し・無権利の資本主義勃興期に逆戻りしているようだ。

30年も前、盛田昭夫氏が懸念し提言したように、本来なら各企業の個別の利益を超えて、日本の資本主義全体の健全な発達を視野に入れた見識を、経団連こそが示すべき時なのに、逆にそのお先棒を担いで恥じない。
トヨタ、キャノンなど、下請け虐め・派遣切りで名を馳せた企業出身者が会長を務め、その路線を引き継ぐ米倉会長であってみれば、それもむべなるかな。


私自身は、資本主義そのものを超えた社会主義的計画経済を展望しているが、今、日本の国民が陥っている苦難は、社会主義が実現されない為ではない。世界から見ても余りにいびつな「ルールなき資本主義」の為だ。
資本主義の健全発達を、当の資本主義陣営に求めることが出来ない現在、その任務は労働者階級と広範な国民各階層、そして「ルールに基づいた資本主義」を当面の要求として掲げている日本共産党だろう。


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